裁判関連 » 2005/11/21 意見陳述 原告 野崎 宏

平成17年11月21日
原告   野崎 宏(68歳)

 私の本件への想いと憂慮と訴えを申し上げたいと思います。

1.眺望・景観・環境の素晴らしさと、世間感覚から乖離した再開発等の都市計画について

 最近、私の娘が嫁ぎましたが、嫁入り前の娘の言葉を忘れられません。それは、都が施した二子再開発組合の事業認可をめぐる意見陳述の頃のことです。娘が言いました。
 「パパ、私がお嫁に行くとき、何もいらないわよ。ただ、私が持って行きたいのは、我が家の環境をそのまま持って行かれたら、持っていきたいの。」と。私はその言葉を聞いた時に、娘が豊かな心を持って、健やかに育ってくれたのを、ただ有り難いことだと感謝するとともに、40年前にこの部屋を買うために最初に訪れた時、その景色を見たとたんに、女房に相談することもなく、先方の言い値で決めた私の判断が間違いでなかったと報われた気がしました。
 五島美術館とセントメリー・アメリカン・スクールを巡るあたり一帯の国分寺崖線の豊かな緑、ゆったりと流れる多摩川と対岸の川崎市側緑地帯、南西に丹沢連峰と富士山、西へ高尾山・南アルプスとパノラマのように望んでおり、駒沢通り寄りの北側に廻れば、マンション内の駒沢通り沿いに欅並木が続き、まるで谷底沿いの緑のトンネルのごとき雰囲気です。
 毎年夏には、親しい友人等を呼んで、多摩川花火を見物して旧交を温めています。「花火も富士山もあと数年で終わりだ。」と私が話すと、どの友人もこの地が、都の城南地区の小中学生の遠足の地として果たしてきた歴史的役割をよく承知しており、一様に、例外なく「そんな馬鹿な話が、バブル時ならいざ知らず、今の時代でも、まだそんな話を真面目に考える奴がいるのか、ひどい話だ」と嘆き、次には怒り出します。
 私は、私のマンションが心を和ませる、素晴らしい環境にあるということをまず指摘したいのですが、今や、時代の要請として、
 『美しい景観とか眺望は、成熟した市民社会の象徴である』
という一般社会のコンセプトもあり、また、世田谷風景条例にも、
 『風景は祖先から受け付き、行政と住民が手を携えて守ってきた貴重な財産で、 子孫にも伝えていく義務がある』
との主旨が謳われており、さらに、国交省と東京都が、
 『道路の景色は、正に文化そのもので、美しい道路の景色を保全する事を、本 気で後援してる。』
時代だということを指摘申し上げたいとともに、当該再開発地一帯を、古くから良く知っている人間の共通の感覚として、
 『国分寺崖線の豊かな緑と水と光のこの地に、新宿・池袋・汐留・品川の如 き、超高層ビルの連なりと道路拡幅と、健康をおびやかす排気ガスの充満とか の都心並の光景は、決して馴染まず、周辺住民の望むものではない』
ということを申し上げたいと思います。

2.周辺住民に被害の受忍をただ強いるだけで、説得力の全くないことについて

 二子開発事業と同地域へのアクセス道路として同根一体の駒沢通り拡幅の両都市計画は、手法・内容の両面において、私たちは到底納得できません。以下、いくつかの事実を申し上げたいと思います。

  1. 周辺住民の同意がないという事実について
     住民の了解取付けのためと称して、平成12年都市計画決定時、数回行われた住民説明会では、毎回時間切による質疑打ち切りで、怒号と罵声の中に終了する有様で、住民の理解を得たと報告されるには程遠いものでした。もともと警察・消防の関係団体を始めとして、町会・商店会等の団体で承認が得られたとしても、それはいわば行政に近く継っている団体の出来レースの話に過ぎず、一般住民のそれではありません。
  2. 周辺住民の蒙る被害に対する盟主東急側の配慮の無さについて
     ところで、学校・住まい合わせて約60年、東急の沿線で生活しており、親族も東急系関係会社の役員を勤めていたこともあり、本来祖父以来の東急ファンである立場であるにも拘わらず、敢えて申し上げたいのです。再開発事業組合の85%を占める盟主たる東急は、本質的に自社存立の基盤たる永年の顧客である我々沿線住民との対話を怠り、元風致地区で「国分寺崖線から多摩川までの地域は優良な住宅地」と区が他では認めている地域と同等以上の優良地域で、自らが、地域住民と共に培ってきた環境そのものを破壊する行為をいとわず、画策した超高層ビルの保留床の売り上げのみに専念するのみです。いわば広域鉄道事業者という企業の社会的責任を自ら放棄して、都市計画という錦の御旗を免罪符として、今やほとんど自社マンション事業に近い組合事業に700億円以上の公金を投入せしめて、専ら自社グループの利益の追求のみに急で、その結果として、一方で周辺住民が蒙る被害に対しては、一切配慮の姿勢すら見せないということは驚くべきことです。
     本来、沿線長年の顧客の信頼を失わぬように、高層は駅前ビルにとどめる等の環境に穏やかな内容に修正して、長期的に利益の回収を図るべきところ、同社の最近の有価証券報告書に記載されているようなイチかバチかの勝負の如き表現は世間一般の常識を超えた異常な姿勢だと思います。
  3. 行政の対応について
     ここ2〜3年の間に、個人として、多くの住民が再開発・駒沢通り沿道用途変更・同じく同優先整備路線指定・国分寺崖線保全条例、区の整備方針等の案件絡みで、区・都の行政に対して、幾多のアンケート・意見書の提出・陳述を行い、区長を囲むタウン・ミーティングにも出席・質問すると共に、再開発反対団体の会長・マンション管理組合の理事長から、再開発準備組合とその盟主たる東急電鉄株式会社・区長・都知事等行政の首長宛、各々見直し要請の公翰を出状していますが、
    1. 事務レベルからは全てガス抜き扱いにされ、
    2. 「二子再開発は交通渋滞の解消に役立つ」等の根拠のない、見当違いの返事が、区の街作り部長から来たり、
    3. あるいは、首長からは、一切無視・黙殺・無回答で、(東急も全く同様で)
     凡そ、民主主義国家内における行政のあるべき姿、並びに、住民との望ましい関係ではなく、さながら後進国家政権並の住民と対話の無い、不毛の関係だったので、提訴に及びました。
     区長は二言目には、「区民の意見の汲み上げが熊本区政の原点」とか、「街作りは住民の意向が基本」とか格好の良いことを発言しますが、本件も含め、環境絡みでは、区民の意見が汲み上げられた試しがありません。また、区長は、第IIA街区破綻をめぐって、東急と対峙する振りを一時示したものの、今年3月末日まで、再開発組合を指導する立場であった区の街作り部長が4月1日に、その組合に天下りするのを放置するくらいですから、今から思うと猿芝居だったとしか思えません。
  4. 「広大な都市計画公園付帯公約」の目途が無いことについて
     平成12年都計審時、超高層ビル許可の付帯状況の説明として、緑の補充は広大な都市計画公園の併設で行うとされているにも拘わらず、現在では、超高層ビル群を先行させて、公園の具体的目途は、区議会にも明示されず、行政にこれを問うと「100年先でも出来上がれば良いとして許されるのが都市計画というものだ」との暴論まで明言する一方で、最近の都議会都市整備委員会においては、民間開発局参事が、何の裏付けの根拠も示さずに、ただ「平成22年には出来上がる」と堂々お役所仕事風の答弁で済ませています。
  5. IIA街区ホテル・事務所棟の破綻は
    再開発事業そのものの破綻であることについて

     本事業象徴たる中心施設とされていた当初棟は、需要の見込みの破綻から、白紙に戻り、その用途・内容・採算等は、事実上具体的な目途は立っていません。
     区長がタウン・ミーティングで、「東急の本件、撤回は認められない」と公言した所以です。便宜第一、第二組合への分割とかは、地域一帯の総合的開発を宗とする都市計画法に背く欺瞞の方策ゆえ、この破綻した抜け殻の如き事業骨子を以てしては、我々周辺住民に被害と受忍を納得させられるものではありません。しかも、区は、この崖線から多摩川の水辺までを、他の地域では自然環境保全ゾーンと指定しているゆえ、もともと、当該地区のように、超高層ビル特区の如き扱いは本来倫理上許される筈もない場所なのです。
  6. 駒沢通り拡幅データについて
    二子再開発へのアクセス道路であることを優先整備路線の第一の理由としているが、前項のとおり第II街区破綻により、開発交通量自体の根拠が定かではない上、現交通量の予測は実に平成3年のものが使われているのです。すなわち「不合理な現状認識と将来の明確な見通しなく決定された都市計画は、違法である」との最近の東京高裁での伊東市における都市計画に係る行政側逆転敗訴時の判決文に正に当てはまります。
  7. 駒沢通りの拡幅方法について
     区は、前項のデータ不足に加えて、都の拡幅時の左右沿道の公平感のための、昭和の初めからの大原則と言われている。「原道中心線から、左右均一拡幅の原則」を曲げて、上野毛ハイム並びに下手上野毛町側に厚い拡幅を志しています。平成13年からその原因が、向かい側に都水道局のずい道の存在にある由行政から説明された時から、なぜそれがいじれないのか、4年たった今でも何の回答も得られていません。その結果、排ガスの健康被害を押しつけられた上に、マンションの生命線たる駐車場、ゴミ置き場が買収されるのですから、たまったものではありません。要するに、再開発組合と行政が主役で主権がそこにあり、周辺住民には主権不在という姿勢です。
  8. 本都市計画決定までの諸手続の不当性について
    要するに、ただそこに広大な空き地があるからとの理由だけで、住民不参加で東急・行政が昔の発想で高層ビル群を計画したものゆえ、環境自体とか環境行政とか、電車・車の交通とかの負荷が過重となり、方々でヒッチを来しているというのが現実です。
    だから、この再開発が、いわば治外法権的扱いとなり、世田谷区風景条例・国分寺崖線保全条例・世田谷区整備方針等の、平成11年から最近にかけての区の環境行政の埒外に常にあり、事実上当該諸法令のザル化の見本とならざるを得ない状態を現出させる訳です。
    このような事業に至った原点は、議会・住民不在・不参加のまま、密かに締結された区と東急の諸協定とそれに基づく、用途地域・換地・都議会への「地権者の4分の3が再開発計画に賛成」との虚偽報告にあり、環境被害を被る周辺住民としてはこの過程を到底容認できません。

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